インタビュー

【特別対談】ヘスス・カンデラス×谷本俊介 日本が勝つために必要なこと

スペインの名門インテルモビスタやイラン代表を率いたヘスス・カンデラス氏と、府中アスレティックFCの現役監督である谷本俊介氏の対談が実現した。大学で工学を学んでいたという共通点を持つ2人。谷本氏が世界的名将に聞きたかったこととは?

世界最高のクラブで経験した最悪のマネジメント

谷本 まず、自己紹介をさせてください。今、府中アスレティックFCのトップチームの監督をしている谷本俊介と言います。実は、僕も工学系の出身で、父がそういう会社を経営しています。

カンデラス では、私と似ていますね。

谷本 僕も以前はエンジニアをしていたのですが、頭がおかしいので、今はフットサルの監督になっています。

カンデラス それはある意味、私よりも勇敢な決断をしていますね(笑)。頑張ってほしいと、心から思います。情熱を持てるモノに取り組むことが、一番良いと思います。

谷本 監督は、過去にインテルモビスタ(現インテル)という世界で一番強いチームを指揮していました。そこにいるのはみんな王様のような選手たちですから、そこで選手を扱うというのは、本当に難しかったと思うんです。何が一番難しく、それを解決するためには、どういった方法をご自身でなされていたのですか?

カンデラス そういった立場の監督には、チームの役割をマネジメントすることが、とても重要です。私の経験では2つ、とても重要なポイントがありました。一つは、リスボンでクラブのヨーロッパ選手権を戦っていたときのことです。ベンフィカとの決勝が待ち受けていました。それまで良いプレーをしていなかったという背景はありましたが、決勝というのは別ものです。一気にプレーのレベルがジャンプアップする可能性も十分にありました。決勝は、明らかな目標があるので、プレーのレベルが戻ることがあるのです。しかし、そこで何が起きたかというと、決勝の日の昼食の後に、クラブから一つのオーダーを受けました。それは、「来シーズンからユニフォームのサプライヤーが変わるから、契約を更新する選手たちのユニフォームのサイズを測らせてほしい」というものでした。

谷本 (苦笑)。

カンデラス そして決勝戦、私たちは延長戦で負けて、私はチームを去りました。それが、私が今まで経験した中で、スポーツ団体における最悪のマネジメントです。
もう一つ、クラブが介入してきた話でいうと、シュマイケルとダニエルの給料についてです。クラブは、「シュマイケルはダニエルよりも、はるかに多くの金額をもらうべきである」という査定結果を出してきました。クラブと選手は、当然、良好な関係にいるべきです。しかし、そこですべてのバランスが崩れました。一人の選手が過大評価されると、もう一人は協力をしないという心理的な状態に陥りやすくなります。一緒に2人で仕事をして、10という価値を稼いだとします。その10のうち、1を一人に、9をもう一人に渡すと、1しかもらえなかった人は、次に同じ仕事をやろうとしても協力しないという結果が、科学的にも出ています。それと同じ状況が起きました。その2つが、最も難しい状況として強調したいエピソードです。さすがにこれは解決できない、マネジメント不能なものでした。

――逆に言うと、普段は平等に選手を扱おうと心がけていたのですか?

カンデラス 「公平に」というのは、よく言われることですが、それは相当に解釈が挟まるものです。ですから、私は一貫した姿勢を保つことを意識していました。

――具体的に、どうしたのですか?

カンデラス たとえば、すごく出場時間の長い選手がそれなりの金額をもらっていて、出場時間が短い選手がそれほどもらっていなかったとします。出場時間が短い選手は、それによって給料が少ないと考えて、「僕ももっとプレーしたい」と言うでしょう。でも、そこで話さないといけないのは、「クラブはキミの出す生産性よりも、彼の出す生産性を評価している」ということです。つまり、プレーできるかどうかは生産性、すなわちパフォーマンス次第であり、長くプレーをするから給料が上がっているわけではないということです。
私がインテルモビスタの監督になったとき、最初にオーナーがしてきた質問は、「誰が5人の中で一番、給料をもらっていると思う?」というものでした。そういう状況で、どれだけ一貫性を保てるかは、とても大切です。そこで私が一貫性を保てなければ、バランスを欠いてしまいます。そもそも協力をしあえないような配分がなされているとき、どう振る舞うかは、監督として最も重要です。このように和を乱す外的要因はいろいろありますが、一貫性を保つことを私は大事にしています。
ですから、私は「全員に平等な出場時間を与える」という意味での民主的な監督ではありません。どちらかといえば、揉めごとはあってもいいですし、一貫性を持って対処していくことが大事だと考えています。

全員の役割と価値を認めること

谷本 それはプレーにも影響すると思うのですが、役割でいえば、攻撃が得意な選手、守備が得意な選手がいますよね?

カンデラス ほとんどの場合、そういう役割というのは、選手のパーソナリティ自体がパフォーマンスに発揮された結果です。人間の行動を研究した一つの結果として、人にはそれぞれ異なる役割があると言われています。誰もが、それぞれコミュニケーターであったり、すごく引っ張っていく人間であったり、何かを後押しする人間だったりという役割があります。その役割すべてには、価値があるのです。そして全員、役割は違います。それぞれに価値を与えてあげることが大切です。でも、クラブとしては「キミは、こういう役割をするから、これだけの金額を払っているんだ」ということが、現実的に起きてしまいますよね。

――理想論を言うと、その金額的な評価についても監督が介入するべきなのでしょうか? それともクラブに任せるのがいいのでしょうか?

カンデラス 常にバランスをとるためには、どちらかに偏るのではなく、それぞれが一定の権限は持つべきでしょう。権力が片方に偏ると肥大化してしまいますし、それはすべてパフォーマンスにつながります。ですから、どのようにバランスをシェアするのかが、重要ではないでしょうか。ただ、株主、株式会社は、誰が何を決めるかという点で、非常に特徴的な組織です。たとえば、サッカーのパリ・サンジェルマンで何が起きているでしょう? 大株主が持っている影響力、権限は何かに関わってきます。アメリカのNBAのように、サラリーキャップ制がしかれていると、すごくお金をもらえる選手がいる一方、それほどもらえない人たちも、どの程度が支払われるかは一律で決まっているので、ある程度のバランスはとれる状況になっていますよね。

――そういうNBAのようなシステムがある方が、各クラブのやることは明確になりそうですね。

カンデラス スポーツ面での継続性を確保することよりも、経済的な継続性をどう確保するかが、クラブ運営にとって大切であり難しいのです。競技でハイパフォーマンスを出すことよりも、経営面で一定のパフォーマンスを保つことが、一番の問題になります。

――NBAのようなサラリーキャップ制を取らないのであれば、プレー面での評価は監督が、その他の部分での貢献、例えばファンサービスをどれだけしていたかなどは、クラブが判断するというのも手かもしれませんね。

カンデラス でも最終的には『結果』が出てくるんですよ。テレビに映る、シャツを売るとか、そういうことをするためには、良い結果を残さないといけません。そうなると経営面からは、結果が最も重要視されても仕方がないのではないでしょうか。

日本が勝つためのヒント

谷本 Fリーグを1試合見ていただいたという話がありました。もちろん、その試合ですべては語れないでしょうし、日本のレベルを上げるために、育成年代からしっかり強化することは大切だと思います。
でも、Fリーグや日本代表は、すぐに結果を求められていて、今いる選手たちで戦わないといけません。そうした現状の中で、日本が勝つために必要なこととは何でしょうか。たとえば先ほどの講義の中では、「日本の選手は体が前に向かない」という話をされていました。そこで何か、すぐに変えられることで、『これを変えたら日本はもっと良くなるのではないか』ということは、何でしょうか?

カンデラス それは、ブルーノ・ガルシア監督の仕事ですよ(笑)。彼の仕事に介入するつもりはないということは、理解してくださいね。

谷本 はい。もちろんです。

カンデラス 日本のように規律だった国民性、文化に重要性を置くチームは、ディフェンスにおいてであれば、クリエイティブな秩序を持ったプレーができるのではないかと思っています。誤解も生じていますが、マンツーマンディフェンスは、どちらかというと規律面で劣る人たちに向けられたシステムだと感じます。ゲーム自体が、非常に分析的になるとでも言いましょうか、切り離されているんです。1対1が4つある……という形になりやすいんです。

谷本 はい。わかります。

カンデラス では、コレクティブなインテリジェンスは、実際にどこにあるのか。バスケットボールは、スター選手を生み出すために、マンツーマンが非常に大事です。しかし、私たちのスポーツは、そうではない部分があるのではないでしょうか。理解をするのは難しい部分もあるでしょうが、そういうものだと私は思っています。ディフェンスも、攻撃のようにクリエイティブになると思うので、そういう部分でクリエイティブを出していけばいい。誰でもできる仕事の時間がディフェンス、ということではないはずです。

谷本 それをすることで、戦術的な駆け引きが生まれて、よりレベルが上がります。

カンデラス あとは前を向いてプレーするのではなく、横を向いて横にドリブルすることがすごく多い。横を向いていると、ボールを守らざるを得ない状況になります。ですから前を向き、ボールを持ったときにしっかりプレーする。それだけのフェイントがかけられる十分な力があるのではないでしょうか。

谷本 そこは講習会での感情論の話に戻ると思いますが、日本人は指導者に怒られてしまうため、プレーする際にミスを恐れてしまう体勢になってしまう。そうなると同じ1メートルでも、スペイン人はプレッシャーに感じなくても、日本人はプレッシャーに感じてしまう……。

カンデラス そこまでわかっていれば、どこを改善しなければいけないかは、もうすでにわかっていますよね(笑)? フットサルは、ボールを持っている選手ではなく、ボールを持っていない選手が、スピードをつくっていくスポーツです。たしかにボールを持っている選手がスピードをつくるとき、リズムをつくるときもありますから、これは一つの私の意見であり、批判ではありません。実際、あなたは何かを変えられるし、変えるべきところに気づいているので、絶対にできると思います。今日はありがとうございました。

谷本 こちらこそ、ありがとうございました。

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