インタビュー

【インタビュー】ヘスス・カンデラス「指導者は子供たちの感性・感情を理解せよ」(前編)

ヘスス・カンデラス。スペイン屈指の強豪であるインテルモビスタやイラン代表で指揮を執り、5度のスペインリーグ優勝など、輝かしい実績を残してきた世界的名将が、12月に日本を訪れて、各種講習会を行なった。来日した際に実現したインタビューを、前後編でお届けする。

世界での日本の立ち位置を変えられる可能性のあるFリーガーがいた

――まずは今回の来日の目的をお聞かせください。
カンデラス その話の出発点として、まず私は日本を愛しています。今回のように「日本で指導者向けの講習会・講演会、実技の指導や企業研修をやらないか?」という招待を頂いた場合、断る理由がありません。もう一つは、私の知識を共有することが目的です。そして3つ目は、私自身が学びを得ることです。すべての参加者、すべての人が私にしてくれる質問、そのすべてが私にとっての学びとなります。

――今日はJ-フロンテッジフットボールスクールのコーチ研修が公開で行われ、平日の午前中にも関わらず100人近くの日本人指導者が集まりました。彼らと接し、どのように感じましたか?
カンデラス グラスルーツの育成年代の指導者からハイパフォーマンスの指導者(Fリーグクラブの監督など)まで、これだけの人たちがフットサルを愛し、情熱を持って参加してくれました。日本は本当にフットサルをとても大事にしていると感じましたし、発展があり、未来がある国なのだろうと感じています。

――今回の来日期間中に、Fリーグの試合はご覧になられましたか?
カンデラス 見ました。すみだと北海道の試合を土曜日に見ました。日本の今後の世界での立ち位置を変えられるのではないかと感じる選手がいました。素晴らしい存在感、ゴールを奪う能力がある選手だったと思います。

――清水和也選手のことですね。
カンデラス はい。どんな代表チームにあっても、ああいう選手がすべて、どういうゲーム展開をしていくチームなのかを定めていく役割を担っていると思います。もう一つ、興行としてのオーガナイズがとても組織立っていて、すごく計画させられた企画、ホームゲームが展開されていたことも素晴らしかったと思います。

――競技のレベルとしてはいかがでしたか?
カンデラス 私が見た試合は、残念ながら両チームが競い合っていた試合にはなっていませんでした。大事なのはスコアの差がないときに、お互いにどういうことをするのか。また、難しい状況に陥りかけたとき、陥りそうなときに、そのチームがどういう反応をするのか、どういったアクションを起こすのかに注目しています。たとえば同点の状態から1点を取られたとか、試合が競っていたときに不快なストレスがかかった状態でどう振る舞うかを見ています。ただし、一つのチームについて語るうえでは、最低でも9試合見ないといけないと思っています。

――9試合もですか!?
カンデラス どんなチームでもある程度、分析を行なううえで、その本当の価値を見出すために必要な情報量は、おおよそ9試合分の情報量だという研究結果が存在しています。ですから、9試合と言っています。リーグ戦を考えても、やはり9節くらい進まないと順位は定まりません。つまり9試合見ていけば、そのチームの実力、どれくらいの価値があるかは、おおよそ定まっていきます。そういうところにも、「9試合」の根拠は現れているでしょう。科学的にも、そういったモニタリングをするために必要なのは、再現性です。再現性を求めるには、それくらいの情報量が必要です。

――勝った試合と負けた試合では、当然、同じチームであっても、全く異なる状況が出てきますよね?
カンデラス 勝ち、負けで、かなり変わりますが、スコアによる勝ち負けを見るよりも、何ができるかという尺度で見るのです。

――勝っているときは何ができるか、負けているときは何ができるか、そのチームの上限と下限を見るわけですね。
カンデラス そうです。なぜかと言えば、4つくらいのファクターが入ってきます。一つ目は審判ですが、ここでは話題にしないでおきましょう。2つ目は対戦相手。3つ目は、退場やファウルを含めたゲームの経過ですね。そして、4つ目が得点です。残念ながら、この4つ目の「得点」が、パフォーマンスを定義する最も重要なファクターになってしまいます。先ほど「大事なのはスコアの差がないときに、お互いにどういうことをするのか」と言ったのは、そうした理由からです。

――研修会の中では、感情の重要性も説いていました。得点が入ると当然、選手の感情も大きく揺れますよね。
カンデラス ポイントは、喜怒哀楽が起こることよりも、エモーションというパラメーターが、どうパフォーマンスに影響しているかという考え方です。すべてのアクションには感情的なパターンが存在します。たとえばPKを蹴るとき、選手には考える時間があります。しかし、実際にインプレーでプレーしているとき、ゲーム中のパフォーマンスというのは、いろいろな感情が入り込む余地がない、とても早い中でプレーをしないといけません。そういう意味での感情という捉え方をしてください。

――つまり『精神状態を一定に保ってプレーすることが理想だよ』ということですね。
カンデラス その通りです。それでも常に最高レベルのアラートでプレーし続けることはできません。ですから、どれだけ波がありながらも、高いレベルで維持していけるかがポイントです。必ずしも落ちることがダメなわけではありませんし、高いところに一直線であり続けなければいけないということでもありません。落ち着いた目つきをした選手というのは、完全にアクティブな、活性化した開いた状態にあると言えるでしょう。

常に起こり得る失敗とどう付き合うか

――本日の指導内容は、育成年代の子供たちを指導する際のものでした。今、うかがった感情のコントロールについては、子供を指導するときはどんなアプローチができるのでしょうか。
カンデラス 感情の種類は、56個くらいあります。

――56ですか!?
カンデラス でも、ベーシックなものは、そのうちの7つくらいです。子供たちがよく持つ7つくらいの感性、感情をコーチたちがしっかりと理解すること。それができれば、ミスをしたときに湧いてくる感情に対して、どう振る舞い、アプローチしてあげればいいかもわかり、感情へのアプローチができるようになるはずです。
よくある感情の一つに、『悲しみ』があります。この『悲しみ』という感情は、一般的に何かに失敗したときに出てくる感情ですが、私はどちらかというと『嫉妬』という感情が出やすいです。このように、何かが起きてフィードバックをするとき、自分に生じる感情が、どういうものなのかを把握しておく必要があります。ここでは『失敗』が起きた場合の例をあげましたが、自分の生体反応と、どうやって付き合って、向き合っていくかが大事なのです。

――なるほど。
カンデラス これだけ狭いピッチで行なわれる私たちのスポーツですと、失敗というのは常に起こるものです。集中力は常に低下し、乱れます。どのように注意力、集中力を保つことができるか。最終的に予測ができる状態にいられるかどうかに、つながっていくのです。

――子供の頃は、日本人選手とスペイン人選手で、それほど能力は変わらないと思います。しかし、Fリーグでプレーする日本人選手とスペインのリーガでプレーしているスペイン人選手のレベルは大きく異なります。この差は、どこで生まれるとお考えですか?
カンデラス 社会的な状況があると思っています。日本の子供たちは、結局、サッカー選手になることが唯一の選択肢ではないという社会的な価値があります。それは、そうあるべきでしょう。スペインの子供たちは、トップレベルに入るために競争を勝ち抜けば、すごい金額のお金を稼げるという背景があります。つまり生きていく道、成功する道としてフットボールを見ています。だから競争が早く始まり、その競争の中で強いものが残る原理が働きます。当然、年が経てば、年が経つほど強いものが残ります。しかし、そこで生じる問題としては、競争をしてきて負けた子供たちが、学業という意味での教育を受けられていない。その状態で競争からドロップアウトして、放り出されてしまうことが起きています。(フットサルの競技面で)大きなレベルの差が生まれているのは、その社会システムの問題、価値観の問題でしょう。ですから、必ずしもどちらが良いという考え方はできません。

――フットサルではスペインの方がレベルが高くても、国としてはどっちがいいかは別問題ということですね。
カンデラス 社会の部分では、日本の方が成熟しているでしょう。セカンドキャリアの問題は、スペインで大きな問題となっています。そこまでを含めた成熟度でいえば、スポーツ面でも失敗を犯しているといえます。

――そうなると競技面でも、日本の社会そのものが変わらないとスペインには追いつけないということでしょうか。
カンデラス そんなことはありません。社会システムよりも、大切なことがあると思います。先ほど、講習会でもドイツの育成の話(※注)をしたのですが、「どの年代において、最もタレントを教育する必要があるのか」を定め、タレント養成スクールのように、技術的な専門教育を行なう学校や組織をつくっていくかが大切です。私は16歳から18歳で、そういった才能をしっかりと確保して、育てることが最も重要になると思っています。スポーツ面でも奨学金制度とかが、学業と両立してできていけば、また状況が変わってくるでしょう。

――奨学金を目指して、競争も生まれてきそうですね。
カンデラス いま、ドイツはそういったことを20年続けてきたことで、変化が出てきているわけです。それは一つ、非常に興味深い投資です。ただし、コストも大きくかかっています。

※指導者研修会で行った、ドイツの話の部分はこちらです。
カンデラス ドイツではサッカーのW杯で結果が出なかった時期に、いろいろな動きがありました。そこでもっとも心配され、話題となったのは、トップカテゴリーで行なわれていたことではなく、ベースとなる土台の部分、育成カテゴリーで何をやっていたかでした。そこでドイツサッカー協会は、1部、2部リーグに所属するチームに、タレント養成スクールを持つことを義務付けたのです。そして協会は、その管轄内にあるクラブが、ちゃんとタレントを発掘し、育てているかの評価を継続的に行う取り組みを始めました。そこから2世代の世代交代があり、ドイツ代表は高いレベルを維持して、2014年のW杯では優勝しました。
ただ、興味深いのは、そのワールドチャンピオンになったドイツ代表の選手のほとんどが、タレント養成スクールに行けなかった子供たちなのです。つまり、最も大事なのはどこで学ぶかではなく、子供たちとボールとの関係をより親密にすること、フットボールに傾けている情熱を刺激してあげることというメッセージが、この事例には含まれているのではないでしょうか。
ですから、みなさんの仕事というのは、とても大切なのです。未来の選手を育てるために大切なのは、そこで何を教えてもらったのかはもちろんですが、同時に『ボールを蹴りたい』と思ったときに、好きに、自由に、ボールを蹴っていろいろなことを学ぶことができているかなのです。子供たちは、その両方から同時に学んでいることを理解しなければいけません。
なぜかというと、皆さん(指導者)の前でプレーしているとき、子供たちは良いプレーをしようとします。しかし、みなさんがいない場所でボールを蹴るときは、別に失敗をしてもいいプレーをしますし、失敗をしても何とも思わないでしょう。そのミスをするということは、もっとも学びにつながるものです。ミスをすることが大事という考え方も、常に持っていましょう。

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《後編へ続く》

【プロフィール】
ヘスス・カンデラス

国籍:スペイン 生年月日:1957年10月07日
資格: スペインフットサル指導者ライセンス・レベル3
[主な経歴]
2012 イラン代表スポーツディレクター
2009-2010 インテル・モビスター(スペイン)
1998-1999~2007-2008 インテルビュー・ブーメラン(スペイン)
1996-1997~1997-1998 カハ・セゴビア(スペイン)
[主なタイトル]
スペインリーグ優勝5回(2001-2002、2002-2003、2003-2004、2004-2005、2007-2008)
スペインカップ優勝6回(1988-1989、1997-1998、2000-2001、2003-2004、2004-2005、2006-2007)
スーパーカップ優勝5回(2001-2002、2002-2003、2003-2004、2005-2006、2007-2008)
インターコンチネンタルカップ優勝4回(2005、2006、2007、2008)
UEFAフットサルカップ優勝2回(2003-2004、2005-2006)
UEFAカップウィナーズカップ優勝1回(2007-2008)
[個人タイトル]
LNFS最優秀監督4回(1997-1998、2001-2002、2004-2005、2007-2008)
フットサルプラネット世界最優秀クラブチーム監督2回(2004、2008)

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